
サービストーク
彼女は言った。「不幸自慢よね。でも、本当に不幸な人は自慢しないでしょう」
そんな彼女は誰よりも不幸そうに見えたし、誰よりも幸福そうにも見える。
長い腕をだらんと垂らして僕を睨む。
「そもそも、不幸を自慢する行為こそが不幸だと思うけど」僕は言う。
「違う。幸福も不幸も本人にしか決められないのよ。他人が幸や不幸を決めてはいけないわ」
「まあ、そうだね」
「そうでしょう。裕福な人の幸福を他人がいくら羨んでも、その人が不幸だと思えば不幸なの」
「そんなら、金を分けてくれればいいのにな」
「違うってば。あなたって本当に軽薄」
彼女の台詞は大体が否定語で始まる。
そんな彼女は誰よりも不幸な気がするけれど、生き生きと言葉を並べるので幸せそうでもある。
「そうなんだ。軽薄さが僕の不幸かな」
「ふざけないで」
僕は聞き役を続ける。
しかし、曖昧な受け答えは彼女にとっては無礼にあたるのかもしれない。
「ふざけてはいないよ。ふざけているように見えても」
「なによ、その曖昧な言い方!余計に腹が立つ!」
「いや、本当にふざけてはいないよ。ふざけているようにも見えるんだろうけど…」
「あなたのそうやって自分さえも客観的にみる性質が嫌いだわ」
「僕は、その…」不幸でも幸福でもない。
彼女は、薄くて少し太めの眉を垂れて言った。
「あなたって不幸ね」
「君が言うならそうかもね」